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当社が仲介した賃貸マンションに退去時の敷金返還トラブルが生じ、貸主さんが借主さんから全額返せと訴えられてしまいました。令和2年4月1日以前に結んだ契約で、契約書には借主が原状回復費を負担するとの特約もあるのですが、全額返さなければならないのでしょうか。

2022/07/05 [07月05日号掲載]

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原状回復義務とは

 賃貸借契約が終了した場合、借主は賃借物を原状(元の状態)に戻して貸主に返さなければいけません。これを原状回復義務といいます。このため、借主は、通常の使用を超えるような使用による損耗、毀損を修繕する必要があります。

 しかし、貸主がハウスクリーニング代などを敷金から精算することが多くあり、借主が敷金返還請求をするトラブルが多発しました。

 これを受け、平成10年3月に国交省が原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(以下「ガイドライン」という)を公表し、その後、裁判例やガイドラインの改訂を積み重ねた結果、ついに民法が改正され令和2年4月1日に借主の原状回復義務が明文化されました。

 原状回復の費用負担の考え方は、大きく分けて次の2つです。

①経年劣化・通常損耗は貸主負担

 ハウスクリーニング費用や、クロスの変色、家具の設置による床のへこみ等の補修費用は、貸主が負担します。家を借りて生活をすれば、誰が使用しても劣化や損耗する部分が出るのは当然であり、家賃によりてん補されているはずだとの考え方です。

②故意・過失、善管注意義務違反

 による損耗・毀損は借主負担

 壁の落書き、引越作業で生じたひっかき傷、タバコのヤニ汚れ等は、通常の使用を超える使用によるものであり、その補修費用は借主が負担します。ただし、その主張・立証責任は貸主が負い、また、借主の負担割合も経過年数の考慮により減じられます。

 改正民法の対象となる契約は、令和2年4月1日以降に締結した契約ですが、同日以降に合意によって更新された賃貸借契約も対象になります。

 

借主に特別の負担を課す特約

 原状回復義務の原則を超えた特約を設けることは可能ですが、特約の成立や効力を争われることになります。そこで、過去の判例やガイドラインでは、借主に特別の負担を課す特約が成立するには、次の3つの要件を満たす必要があるとされています。

 ①負担すべき範囲の明確性、②金額の予測性、③通常の原状回復義務以上の負担を負うことの認識、これら3の要件が満たされている場合です。具体的には、契約書等で、借主が退去時にどの部分についてどれだけ費用負担することになるのかが、負担単位と金額によって明示されていなければなりません。さらに、借主が本来負担しなくてよい義務を負担することになると認識するに足る説明がなされた証拠が必要です。

 

司法書士にご相談ください

 有効な特約がないならば、賃貸マンションに生じている損耗や毀損が、通常の使用方法を逸脱した使用によって生じたものであることなど、借主の故意・過失を丹念に主張・立証することによって、本来借主が負担すべき修繕費を見出していくことは可能です。

 司法書士は、簡易裁判所における訴訟代理をすることができますし、裁判書類の作成により訴訟支援することもできます。是非お近くの司法書士または司法書士総合相談センターしずおかまでご相談ください。

 

片岡司法書士事務所

焼津市焼津二丁目10番20号中野ビル203

司法書士 片岡信介 氏