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当社には、オーナー社長(父)がいますが、先日も炎天下での作業中に倒れて救急車で運ばれました。一方で、父は、私(息子)には、自社株式を贈与等で譲るつもりはないようです。今後、社長(株主)に何かあった場合に会社の経営が心配です。何か、事前にやっておくべきことはあるでしょうか。

2022/10/05 [10月05日号掲載]

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株主が死亡された場合は、相続人が株主になりますが、その他の不測の事態(事故、認知症発症等)の場合には、議決権の行使等の問題がでてきます。事前に後継者等に自社株の信託をしておくことが考えられます。

 

 

そもそも株式って何?

 株式は、株主の法律上の地位の根拠であり、株主の権利として「共益権」と「自益権」とに分かれます。「共益権」とは、会社の運営や管理に関する権利で、代表的なものとして議決権があります。「自益権」とは、会社から経済的な利益を受ける権利で、代表的なものは配当請求権があります。「共益権」は、「経営権」とも言われ、企業の維持・継続・発展を考える上で重要な権利となります。

 

成年後見制度の活用、でも・・

 株主の判断能力に関わるような不測の事態(認知症、事故等による判断能力の喪失)の場合には、会社の経営に関わる「経営権」の行使ができなくなってしまいますが、その場合の一つの解決方法が、成年後見制度の活用です。成年後見人は、法定代理人ですので、成年被後見人が株式を所有している場合には、成年後見人が株主権の行使を代理することができます。

 ただし、成年後見制度は判断能力のない本人の有する財産の管理や身上監護を目的とした制度なので、どちらかというと「自益権」の管理が中心になり、「経営権」の行使はあまり想定されていないのが実情です。むしろ、緊急事態を回避するための事後的な対策ということになります。

 事前の対策としては、任意後見制度の活用が考えられますが、任意後見制度も、成年後見制度の一形態ですので、基本的には、議決権行使のような経営判断を伴うことはあまり想定されていません。

 

民事信託って何?

 そこで、事前の対策として考えられるのが、民事信託の活用です。

 民事信託とは、ご自身の財産をご自身の「所有」から分離して、独立して管理・処分することにより、その財産から利益を受ける方を守る制度です。

 図を使いながら、もう少し詳しく見てみましょう。

 民事信託では、委託者と受託者と受益者の三者が登場します。「委託者」は自分の財産をその固有の財産とは分離して「受託者」に託します(信託行為)。「受託者」は託された財産を「受益者のために(受益権)」管理・処分します。つまり、民事信託は「受益者のため」に委託者が受託者に自分の財産(信託財産)を託す制度です。

 委託者と受益者を一致させることによって、「自益権」は受益権として現株主が行使でき、「経営権」を受託者に託すことができます。

 今回のケースのように、株主が生前贈与を拒んでいるような場合には、株主(委託者兼受益者)に指図権を付与することで、株主が元気なうちは、今までどおり株主の意向で「経営権」の行使ができます。

 

専門家の活用のススメ

 紙面の都合もあり、すべてをご説明できませんが、各制度には一長一短があります。自社株式の事前対策のご検討の際には、専門家である司法書士を是非ご活用ください。

 

名波司法書士事務所

浜松市南区参野町170番地の1

司法書士 名波直紀 氏