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ビジネス法務

私は、代表者である父とともに事業を営んでおりますが、最近、父が高齢のためか、もの忘れが多くなっています。会社で使用している土地・建物も父名義になっています。この先、父が認知症になってしまった場合、会社はどうなってしまうのでしょうか?

2014/07/04 [07月05日号掲載]

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認知症になって判断能力が低下した場合、役員を退任しなければならないときがあります。また、本人による財産管理ができないときは、本人に代わる財産管理人を裁判所に選任してもらいます。この場合、本人は、財産の処分が制限されます。

 1 財産管理人の選任

 判断能力の低下により、自分で財産管理を行うことが困難な場合は、家庭裁判所に申立のうえ、判断能力の程度に応じて、成年後見、保佐、補助を開始するという審判がなされ、成年後見人等の財産管理人が選任されます。

 

2 役員の退任

 ご相談の例で、お父様が右記1①②に該当した場合、会社法に従い会社の役員を退任しなければなりません。

 これは、辞任とは異なり、本人の意思には全く関係なく、また解任のように株主総会等の決議によるものでもなく、強制的なものとなります。

 取締役や代表取締役だけでなく、監査役や会計監査人であっても同様です。

 従って、もし退任となった場合には、後任者を選任する必要があります。

 

3 財産の処分制限

 会社の土地・建物の名義が会社ではなく、社長個人の名義である場合もよくあります。

 その状態で上記1①~③に該当し、成年後見等開始の審判がなされた場合には、個人の財産を自由に処分(売買、贈与などによる名義変更、金融機関から融資を受ける際の担保設定等)することができなくなります。

 社長個人の自宅を担保に入れて金融機関から事業資金の融資を受けるということはよくある話ですが、成年後見等開始の審判がなされた場合、財産処分に関し代理権を与えられた成年後見人等が選任されますので、以後の重要な財産の処分は成年後見人等が行うことになります。特に自宅等、本人にとって最も重要な財産の処分には家庭裁判所の許可が必要となります。

 この家庭裁判所の許可については、あくまでもその担保設定等が社長個人にとって有益なのかどうかを材料として判断がなされ、会社にとって有益かどうかは二の次にされるため、場合によっては許可が下りなくて担保設定ができないために、金融機関から事業資金の融資を受けられなくなってしまうこともありうるのです。また、不動産の名義変更については、できなくなるわけではありませんが、会社側が対価を支払う必要が出てくることもあります。

 不動産に限らず、預貯金、会社の株式等その他の社長個人の財産についても同様に今までのように自由な処分ができなくなります。

 

4 最後に

 税金や取得費用等を考える必要はありますが、会社組織の円滑な運営、事業承継を考慮し、不動産であれば社長個人から会社や後継者に名義を移したり、会社の株式であれば事業を継いでくれる子供に少しずつ譲渡する、役員であれば代表者の追加選任をしておくなども必要となってくる場合もあります。

 もちろん必ずしなければならないわけではありません。しかし企業経営においてはリスクマネジメントも重要な要素の1つです。現実に判断能力が低下してしまう前に、早めに手を打つことも考えておきましょう。