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私はアパート経営をしています。高齢になってきたので施設への入所を考えています。娘と息子がおり、将来のアパートの管理が心配です。何か方法はありませんか。

2020/04/05 [04月05日号掲載]

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アパート及び金銭を信託財産として民事信託(家族信託)を検討してみましょう。

民事信託はさまざまな場面で活用できますが、認知症対策として活用する方も多いです。

 

民事信託とは

 民事信託は、例えば障がいをお持ちのお子様のために民事信託を活用して資産を承継したり、自社株を信託して事業承継がスムーズに進むようにする等さまざまな場面で活用されています。本事例のように認知症や事故病気等で判断能力がなくなってしまったときにも自分の意思を尊重した財産管理や処分ができるように、元気なうちに子供等へ財産を託すために民事信託を活用する方も増えています。

 民事信託には委託者・受託者・受益者という3つの役割が登場します。財産を託す方を委託者といいます。本事例では相談者が委託者になります。アパート等信託財産を管理運用する方のことを受託者といいます。本事例では相談者のお子様が就任することになると思います。アパートの家賃等信託財産から発生する利益を受け取る方を受益者といい、本事例では相談者が今まで通り利益を受け取り、今後の施設費用等に充てていくことになるでしょう。民事信託契約を締結すると、不動産の登記の名義を変更する必要がありますので、現在委託者名義のアパートの所有権が「信託」を原因として受託者名義に移転することになります。また「信託目録」という特別な登記がなされ、信託契約の内容が登記されることになります。

 

民事信託活用のメリット

1管理運用処分をお子様等に任せることができる

 信託契約書で決められた権限をもとに受託者は信託財産であるアパートを管理運用することになります。受託者は貸主として賃貸借契約を締結することも、リフォーム等の判断をすることもできます。また処分権限等が信託契約により与えられている場合には、信託の目的に反しない範囲でアパートを売却処分することもできます。柔軟でかつ積極的な活用ができるのが民事信託の特徴の一つです。

 

2自益信託の場合課税されない

 本事例のように委託者が受益者を兼ねる場合を「自益信託」といいます。自益信託の場合には所有権が移転され受託者名義に登記がされたとしても、実質的なオーナーは今までのままであると考え、課税しません。よって、信託設定時に譲渡所得税や不動産取得税等はかかりません。ただし、所有権移転登記の際に登録免許税はかかります。

 民事信託契約をすると相続税の節税になると考える方がいますが、民事信託契約をしたことのみをもって相続税の節税効果はありません。受益者が亡くなり相続が発生した場合には受益権が移転することになりますが、その際に相続税の対象になりますのでご注意ください。

 

3最終的な財産帰属を決めることができる

 民事信託契約にて信託終了時に残存する財産の帰属先を決めることができます。これにより遺言と同じような効果をもたらすことができます。ただし、民事信託契約を締結した場合でも遺留分侵害額請求権の対象になりますので注意が必要です。

 

民事信託設定後の注意点

1信託設定後、固定資産税は受託者が支払うことになる

 不動産登記の名義を受託者に変更するため、今後の固定資産税の支払い義務者は受託者となります。よって、信託設定時にアパート等不動産だけでなく、今後の不動産管理におけるランニングコストを考え金銭もともに預けないと、受託者が自分の財産の中から支払うことになります。

 

2信託設定後、受託者が敷金返還義務を負う

 前述したように不動産登記の名義は受託者となるため、賃貸人としての地位を受託者は委託者から継承することになります(民事信託契約内でも地位を継承することを前提として組成します。)。よって、借主へ退室後に支払う敷金返還義務も委託者から継承することになります。信託設定時に委託者から敷金に見合う金銭を信託財産として預かる必要があります。

 

元気なうちに早めの対策を

 民事信託はご本人に判断能力があり元気なうちにしか契約できません。生前対策は早めの対応により選択肢が広がり、よりご自分の望む方法をとりやすくなります。人生100年時代。安心して長生きをするためにも早めの対策をお勧めします。

 

司法書士法人 芝事務所

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司法書士  知美