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私が事業の用に供している土地の名義が亡くなった祖父甲のままになっていることがわかりました。甲は現在の韓国で生まれ、国籍を変えることなく1959年に亡くなりました。相続登記したいのですが、手続をどのように進めたらよいでしょうか。なお、甲には日本国籍に帰化した2人の子ども(私の父Aと叔母B)がいましたが、二人ともすでに亡くなっています。

2020/11/05 [11月05日号掲載]

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ご質問の場合、①甲の死亡時の国籍が現在の大韓民国(以下「韓国」という。)であること、②相続開始の時期が1959年であること、③甲のほかにAやBの相続も発生していることが相続手続に大きく影響します。今回は①および②の論点について順を追って解説します。

 

 

準拠法

 ご質問の場合、すなわち韓国籍の甲が日本国内に土地を残して死亡したときには、その土地の相続手続について日本法が適用されるのか、それとも韓国法が適用されるのか、という問題が生じます。この点について、詳細な説明は紙幅の都合で省略しますが、日本の国際私法には「被相続人の本国法による」と規定されており、韓国のそれには「相続は死亡当時被相続人の本国法による」と規定されていることから、韓国法が適用されることになります。

 

法律不遡及の原則

 法律はしばしば改正されますが、改正後の新しい法律は、特別な規定のない限り改正前の事象には適用されないという原則があります。ご質問のケースにもこの原則が妥当しますので、甲の相続については、韓国の現行法ではなく、甲が死亡した当時の相続法が適用されます。やはり細部の説明は省略しますが、甲が死亡した当時の韓国相続法は、戦前の日本のそれによく似た内容でした。すなわち、戸主が亡くなった場合に適用される年長の男子が当家の財産のすべてを相続するというイメージの「戸主相続」と、戸主以外の者が亡くなった場合に適用される現行法に似たイメージの「財産相続」という二つの相続制度がありました。ご質問の内容からは、甲が戸主だったかどうか定かではありません。したがって、いずれの制度が適用されるのか、資料を収集しながら確認する必要があるでしょう。

 

資料の収集

 相続登記の前提として、①不動産登記記録に記載されている甲と質問者の祖父である甲とが同一人であること、②甲の相続人全員、を明らかにする必要があります。日本人であれば、戸籍や住民票等を通じて概ね明らかにすることができるのですが、被相続人が外国籍の場合にはそう簡単ではありません。ご質問のケースでは、韓国に戸籍制度が存在した(現在は廃止。)ことから、甲については出生から死亡まで連続した韓国戸籍を、AやBについては帰化後から死亡までの日本戸籍を、AやBの相続人については現在の戸籍をそれぞれ収集することになるでしょう。なお、韓国戸籍の収集方法がわからなかったり、出生から死亡までの戸籍がすべて揃わないときには、お近くの司法書士に相談されるとよいでしょう。ケースバイケースですが、例えば在日本大韓民国民団を通じて韓国戸籍を収集したり、日本の法務省が保管している閉鎖等された外国人登録原票の写しを収集したりするなどして、不足を補うことが考えられます。

 

資料が調った後

 資料が調うと、基本的には甲の相続について戸主相続か財産相続のいずれの制度が適用されるか判明します。前者が適用される場合であればAの相続人全員、後者であればAおよびBの相続人全員で、甲名義の土地を目的物とする遺産分割の協議を行い、同土地の取得者を決定のうえ、その取得者の名義に変更することになります。

 

終わりに

 以上のとおり、被相続人が外国籍である場合、日本人のときと比べて手続きが複雑化あるいは煩雑化する傾向にあります。一人で悩まず、お近くの司法書士にご相談いただければ幸いです。

 

海野知子司法書士事務所

静岡市葵区沓谷四丁目1番41号

司法書士 海野知子