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弊社は、2か月前に亡くなった取引先の個人事業主に対して120万円の売掛金債権を有しています。先日、その方の相続人に対して売掛金を請求したところ、家庭裁判所で相続放棄の手続をとったと言われました。弊社の債権は回収できないのでしょうか?

2021/11/05 [11月05日号掲載]

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第一順位の相続人全員が適法に相続放棄の手続をした場合は、次順位の相続人に対して請求することができます。相続する方が誰もいない場合は、亡くなった方の財産は相続財産法人となり、債権者は、家庭裁判所が選任した相続財産管理人の清算手続の中で回収できるかもしれません。

 

誰に請求できるのか

 亡くなった方の債務は、原則として、その方の相続人が法定相続分の割合に応じて負担します。相続人は、法律上、①子(孫などを含む)、②親(祖父母などを含む)、③兄弟姉妹やその子の順に規定されており、配偶者がいるとき配偶者は常に相続人となります。

 第一順位の相続人である配偶者と子の全員が適法に相続放棄の手続をした場合、当該相続人は初めから相続人でなかったことになり、次順位の方が相続人となります。同順位の相続人の中に相続放棄の手続をしていない相続人が一人でもいるときは、次順位の方は相続人ではありませんので、戸籍の調査を行い、誰が請求すべき相続人であるのかを把握する必要があります。

 

相続放棄について

 相続放棄をするには、必ず家庭裁判所で手続をする必要があります。相続放棄の申立が受理されると裁判所から申立をした相続人に対して「相続放棄申述受理通知書」という書面が交付されます。債権者としては、本書面で相続放棄の手続が適法に行われたかを確認することができます。

 もっとも、本書面は、あくまで相続人が放棄の意思を裁判所に示したことを証するものにすぎませんので、相続人に一定の行為があった場合は、相続放棄の効果を否定する余地はあります。例えば、相続人が遺産の全部又は一部を処分したり、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月を経過していながら相続の放棄をしたり、相続人が相続の放棄をした後であっても遺産を隠匿したりするケースが考えられます。

 

相続人が誰もいないとき

 相続人の全員が適法に相続放棄の手続をした場合、あるいは最初から相続人が誰もいない場合は、法律上、亡くなった方の財産は「相続財産法人」となります。相続財産法人が成立する場合、家庭裁判所は、利害関係人等の申立てにより、相続財産の管理人を選任します。亡くなった方の債権者は、利害関係人としてこの請求をすることができます。

 相続財産管理人は、亡くなった方の財産の調査等を経て、債権者に対し、一定の期間内に必要な請求をするよう公告します。債権者はこれに応じて請求の申出をすることになります。管理人は、期限までに申出のあった債権者に対し、遺産から債務を弁済していきます。負債が多く遺産で全額の弁済ができないときは金額に応じて按分されます。現金や預金以外の不動産などの財産は、適宜売却され金銭で配当されることになります。

留意すべき点

 相続財産管理人の選任の申立てをしても、選任され公告がされるまでに通常2〜3か月程度はかかると思われます。また、公告後、2か月を待って債権者を確定し、確定された債権者に対して弁済を行いますので、弁済までに少なくとも4か月以上の期間がかかります。 

 加えて、遺産が少ない場合は、裁判所に数十万円程度の予納金を支払わなければならないこともあります。

 そのため、債権者としては、手続に要する期間や回収見込み、予納金を支払ってまで申立てをすべきかなどを慎重に検討することをお勧めします。

 相続人に対して売掛金の請求をする場合は、相続人の把握やその後の対応、相続財産管理人の選任申立の検討など留意すべき点がいくつかありますので、まずはお近くの司法書士にご相談ください。

 

司法書士鈴木修司事務所

沼津市市場町19番7号

司法書士 鈴木修司