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父が6月に亡くなりました。相続人は母と私と弟です。父の遺産は、自宅不動産、預貯金などです。早急に、遺産である預貯金から父の葬儀費用と母の生活費を支出したいのですが、弟が遺産分割協議に応じません。どうしたらよいでしょうか。

2019/07/05 [07月05日号掲載]

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相続法改正により、2019年7月1日から、遺産分割前の預貯金払戻しの制度が始まりました。これには①家庭裁判所の判断を経ない預貯金払戻しの制度と②家庭裁判所が保全処分として預貯金仮払いを認める制度の2つがあります。同日前に相続が開始した場合でも同日以降はこれらの制度の利用が可能です。詳細は解説をご覧ください。

 

 

従来の預貯金の取扱い

 金融機関は、口座名義人の死亡を知ると直ちにその口座を凍結します。そして、亡くなった方(被相続人)名義の預貯金払戻しを相続人が請求するには、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書(又はそれに代わる金融機関所定の相続手続依頼書)、相続人全員の印鑑証明書、戸籍謄本等の提出を求められるのが一般的です。

 これは、被相続人名義の預貯金は相続開始と同時に相続人全員の財産となり、遺産分割の対象として相続人全員でその処分を決める必要があるという考えによるものです。

遺産分割前の

 預貯金払戻し制度の創設

 しかし、これでは、被相続人の葬儀費用や生前の債務(入院費等)、相続人の生活費等を支払うため相続人が被相続人名義の預貯金の払戻しを受けたいと思っても、他の相続人が被相続人名義の預貯金の遺産分割に反対すればそれができず、不都合がありました。

 そこで、今般の相続法改正により、遺産分割前でも相続人が単独で被相続人名義の預貯金の払戻しが受けられるよう、新たな制度が創設されました。

 これには大別して、①家庭裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しを認める制度と、②家庭裁判所が保全処分として預貯金の仮払いを認める制度の2つがあります。

家庭裁判所の判断を経ずに

 預貯金の払戻しを認める制度

 ①の制度により、各相続人は単独で、家庭裁判所の判断を経ることなく、金融機関の窓口において、口座毎に、相続開始時残高の3分の1にその相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、1金融機関150万円を限度とする)の払戻しを請求することができます。

 たとえば、甲銀行に普通預金300万円、定期預金600万円、乙銀行に定期預金1200万円の各口座を持つ被相続人Xについて、相続人が配偶者Aと子B・C2人の場合、各相続人が単独で払戻しを請求できる金額は下表のとおりです。

 そして、この制度により各相続人が払戻しを受けた預貯金については、遺産の一部分割によりその相続人が取得したものとみなされ、取得した部分が再度遺産分割の対象になることはありません。

家庭裁判所が保全処分として

 預貯金の仮払いを認める制度

 従来より、遺産分割の審判又は調停の申立てがあった場合、家庭裁判所は、事件関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、保全処分として預貯金の仮払いを認めてきました。

 しかし、この要件が厳格であったため、これを緩和し、相続債務の弁済、相続人の生活費の支払い等の事情により預貯金払戻しの必要がある場合には、家庭裁判所が保全処分として預貯金の仮払いを認める②の制度を創設しました。なお、「他の相続人の利益を害さない」ことも要件とされているため、原則として法定相続分を超える仮払いは認められない点にご注意ください。

 そして、この制度により相続人が預貯金の仮払いを受けた場合、それは仮のものであり、本案の遺産分割調停や審判では、仮払いを受けた預貯金を含めて本分割をすることになります。

2019年7月1日より前に

 相続が開始した場合

 以上2つの制度は、2019年7月1日から利用できるようになりましたが、これより前に相続が開始した場合でも、同日以降は利用が可能です。

 したがって、質問者さんのお父様は6月に亡くなったとのことですが、これら制度の利用が可能です。是非、①家庭裁判所の判断を経ずに預貯金の払戻しを認める制度を利用されてはいかがでしょうか。