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先日亡くなった父は、会社の後継者である私が事業用の資産を承継できるように遺言書を作ってくれていました。これで一安心と思っていたのですが、知人から法律が変わったので相続の手続きはなるべく早くやらなければならなくなったという話を聞き、急に心配になってきました。手続きを早く済ませなければならない理由とは何でしょうか?

2019/10/05 [10月05日号掲載]

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相続法の改正により、たとえ遺言書があっても一定の手続きをしなければ第三者に対して権利を主張できなくなりました。遺言書で財産の行き先が決められていても、できるだけ早く相続手続きを行うようにしてください。

 

相続法改正で何が変わったか

 相続法の改正で注意すべき点として、対抗要件を具備しなければ権利の承継を第三者に対抗できなくなってしまったことが挙げられます。

 対抗要件というのは、権利関係の変動(相続や売買による所有権の移転等)を当事者以外の第三者に主張するための要件です。取引の安全を図ることが目的とされています。

 この改正により、不動産や債権(預貯金)の取り扱いがどのように変わったのかを順番にご説明いたします。

 

不動産の扱いはどう変わったのか

 相続開始後に登記をしないでいたときに、他者に法定相続分で登記されてしまうと対抗できません。

 例えば、遺言書ではAという相続人がすべての不動産を相続することになっていたとしても、他の相続人Bの債権者であるX銀行がBの財産を差し押さえるためにBに代わって法定相続分どおりに相続登記を行うことができるのですが、この場合に法改正前であればAはX銀行に対し自分が当該不動産に対する権利を有しているので登記は無効であると主張できていたのです。

 しかし、改正後のルールでは、このような場合にAとX銀行の優劣は対抗要件を先に具備した方が優先されることになりました。

 先程の例では、X銀行が先に差し押さえの登記を済ませてしまっていると、後から遺言書を持ち出してきて自分単独名義の登記をしようとしてもできないのです。

 つまり、遺言書があるというだけでは所有者としての地位は安泰ではなく、他者に先駆けて登記を完了させることが必要となったのです。

 

預貯金の扱いはどう変わったのか

 今回の相続法改正は、預貯金の解約にも影響があります。

 法改正以前には、相続の発生が明らかになった時点で被相続人名義の預金口座は凍結され、その口座を解約するには相続人全員の署名押印がされた遺産分割協議書もしくは金融機関所定の相続手続依頼書が必要でした。

 なので、他の相続人が知らない間に一部の相続人が預金を解約してしまう恐れは少なく、遺言書によって相続分以上に預金を取得することが指定されている相続人は、自分の好きなタイミングで預金解約の手続きをすればよかったのです。

 ところが、相続法改正により遺産分割前の預貯金の払い戻し制度が新設され、各相続人は金融機関に対し自分が預金者の相続人であることを証明しさえすれば、金額に上限はあるものの他の相続人の同意がなくとも預金の払い戻しを受けることができるようになりました。

 遺産分割前の預貯金払戻し制度と遺言や遺産分割協議はどちらが優先するかというと、遺言や遺産分割協議が優先します。

 そのため、本来は遺言や遺産分割協議によって相続人Aがすべての預金を相続することになっている場合、相続人Bは預貯金の払い戻しを受けることができないのです。

 ですが、他の相続人や金融機関等が遺言書や遺産分割協議書の存在を知らなければ、払い戻しをされてしまいます。そのような場合には、払い戻しを受けた相続人に対して返還を求めることになりますが、既にお金が使われてしまっており、当該相続人に返還するだけの能力もない場合にはどうしようもなくなってしまいます。

 つまり、遺言書があっても他の相続人に先を越されることがないように手続きをしなければならないということです。

 なお、預金等の債権について対抗要件を具備するには不動産のように登記を行うのではなく、通知や承諾といった方法をとるのですが、現実的には解約する前に通知を行うよりも、いきなり解約手続きをしてしまう方が簡単です。

 

相続手続きはお早めに

 遺言書が作成されていたり、遺産の分割協議が整っている場合でも、それだけでは権利が保護されなくなりました。

 相続手続きは早いうちに専門家に依頼することをお勧めいたします。

 

司法書士法人つかさ

静岡市葵区追手町1番13号 アゴラ静岡ビル

司法書士 竹下康智