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私は、株式会社の社長で現在68歳です。取締役・株主は私一名だけで、妻と長男が会社を手伝っており、次男はサラリーマンです。将来は長男に会社を継がせたいと考えていますが、どんな準備をすればよいのでしょうか。

2015/11/05 [11月05日号掲載]

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役員構成、株主構成、定款の内容、資産内容などを見直すと共に、万一に備えて遺言書の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

■役員構成の検討

 あなたがお元気なうちに、あらかじめご長男を取締役に加えましょう。

 一名しかいない取締役に突然の事故や病気などの不測の事態が生じると、事業活動・契約など日々の業務もままならず、会社の経営は止まってしまいます。

 ご長男にも経営に加わっていただきながら、少しずつ仕事を引き継ぎ、将来の社長としての自覚を持っていただくことが大切だと思います。

 

■株式の譲渡

 ご長男への株式の譲渡を進めましょう。役員の選任や合併などの重大な決定は株主総会の決議によって行いますので、ご長男が将来会社を経営するのであれば、ご長男が議決に必要な一定数の株式を持つことが必要です。

 また、現在のように、唯一の株主であるあなたに議決権を行使できない事態が生じた場合(例えば、重度の認知症など)、議決権を行使する人がいなくなり、成年後見人を選任するなど裁判所の関与が必要になる場合がありますので、そのような意味でもご長男に株式を所有させることが必要でしょう。

 もっとも、生前に株式を譲渡する場合には、税金に注意が必要です。株式を贈与する場合には、年間110万円までは非課税です(暦年贈与の非課税枠)。また、相続時精算課税制度を用いれば、2500万円まで非課税で贈与することができます。ちなみに、暦年贈与と相続時精算課税制度は併用できません。

 なお、贈与するにしても売買するにしても、税理士に株式の評価を算出してもらってください。

 

■遺言書の作成

 万一、あなたが亡くなったときのために、ご長男に株式を相続させる旨を記載した遺言書を作成しておきましょう。

 一般的に用いられる遺言書の種類は、公正証書遺言か自筆証書遺言です。公正証書遺言は、公証人が作成に関与し証人も必要ですので、自分一人で作成できる自筆証書遺言と比べ費用が掛かります。しかし、自筆証書遺言は、法律に定められた要件を満たさなければ無効となるおそれもあります。

 遺言の有効無効を巡る後日の紛争を避けるためにも、公正証書遺言を利用することをお勧めします。

 

■定款規定の確認

 会社の定款内容が現状に合致していないことがあります。会社法は改正を繰り返していますので、定期的に定款を見直し、必要があれば変更を加えましょう。

 定款に「社長だけが株主総会の招集権者」と定めてあると、仮に社長が亡くなった場合、後任の取締役を選任する株主総会を招集することができなくなり、裁判所の関与が必要となる場合があります。

 例えば、「社長に万一の事態があった場合は、他の取締役が株主総会を招集できる」旨の定款の規定をおけば、裁判所を介する手続きを避けることができます。

 

■会社財産か個人財産かを明確に

 事業に使用している物で、あなた個人名義のものを明らかにしておきましょう。

 会社内には、会社名義の財産とあなた個人の財産とが混在している可能性があります。あなた名義の財産で、事業を行う上で必要不可欠なものについては、会社に買い取ってもらうなど、引き続き会社が使用できる状態にしておく必要があります。

 

■普段から家族で話し合いを

 普段から、会社の未来像について、直接あなたの思いや考えを家族に伝えておくことが、円滑な事業承継に何よりも大切なことだと思います。

山村新一司法書士事務所

浜松市中区砂山町331-7

司法書士 鈴木真也 氏