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在外邦人が相続人の場合の相続手続きについて 教えてください

2015/11/20 [11月20日号掲載]

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被相続人が遺言書を作成していなかった場合には、相続手続きをする際には、遺産分割協議を行なって、遺産分割の内容を決めます。

 

 遺産分割協議で合意した事項を書面にしたものを「遺産分割協議書」といいます。この遺産分割協議書に下記の書類を添付して相続登記申請や銀行預金払戻し手続き等を行います。

相続人を確定するもの…相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

相続人が現存していることの証明…相続人の戸籍謄本(現在のもの)

相続人の実印であることの証明(本人確認)…印鑑証明書

相続人の所在地証明…住民票

 これらの証明書は国内に住んでいる日本人には簡単に手に入るものですが、在外邦人や外国人には手に入れられないことが多いものです。そんな場合の手続きについて取り上げます。

 

在外邦人が相続人の場合の

相続手続き

 在外邦人(外国に住む日本国籍を有する人)で、右記の書類のうち住民票と印鑑証明書を取得することができないときは、住民票に代わるものとして在外公館(大使館や領事館など)で発行される在留証明書、印鑑証明書に代わるものとして署名証明書(サイン証明書)が、相続手続きに当たって必要です。

 

在留証明書

 在外邦人の住所を証明するものです。日本の在外公館で、その国で生活する日本人からの申請に基づいて、発給します。

発給条件

・日本国籍を有すること

・現地にすでに3カ月以上滞在し(見込みを含む)、現在居住していること。

・証明を必要とする本人(注)が公館へ出向いて申請することが必要です。

必要書類

・有効な日本国旅券等

・住所を確認できる文書(例:現地の官公署が発行する滞在許可証、運転免許証、等)

・滞在開始時期(期間)を確認できるもの。また、滞在期間が3カ月未満の場合は、今後3カ月以上の滞在が確認できるもの(賃貸契約書、公共料金の請求書等)。      

 

署名証明書

 在外邦人に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるものです。署名証明書の発行方法は2種類あります。

①海外居住者(申請者)が領事の面前で署名した私文書と領事が発行した証明書を合綴し、割印する方法

②海外居住者(申請者)の署名を単独で証明する方法

 遺産分割協議書の署名証明書につきましては、通常①で行います。

発給条件

・日本国籍を有していること。

・申請する本人が出向いて申請すること。

必要書類

・日本国籍を有していることが確認できる書類(パスポート等)や領事の前で署名するための遺産分割協議書を持参します。

 

在外邦人が相続人の場合の留意点

 国内の公証役場にて署名証明を取得することも可能ですが、在留証明は在外公館でのみ取得できます。したがって在留証明書とともに署名証明書を居住地の領事館等で取得するのが現実的です。

1、領事の面前で署名する

 事前に遺産分割協議書に署名してはいけません。必ず領事の目の前で署名する必要があります。(他の日本在住の相続人は、先に署名捺印していてもかまいません。)

 領事は、提出されたパスポート等を確認し、その場で署名拇印されたのを確認したうえで、その書面の末尾に「本人の署名に相違ない」旨の証明文を付し、証明印を押します。

2、余裕をもって手続きを行う

在外邦人が相続人の場合には、

①遺産分割協議書の作成し、在外邦人である相続人に郵送する。

②遺産分割協議書を持参の上、領事館等に出向き署名証明書と在留証明書を取得する。

③遺産分割協議書とともに上記証明書を国内に郵送する。

④その他の相続人の署名押印をする。(この署名押印は①の前でもよい)

と、遺産分割協議書の完成と添付書類の取得に時間がかかります。相続税の申告が必要な場合には期限を徒過しないよう余裕をもって手続きを進めることが大切です。

 

静岡県行政書士会

西遠支部 天野敏彦