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お金の貸し借りはいつ成立したことになる?

2013/12/04 [12月05日号掲載]

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【Q】お金の貸し借りはいつ成立したことになるのでしょうか?

【A】借りるお金と同額を返す約束をして、相手方からお金を実際に借受けたときから成立することになります。ただし、現在の経済取引ではこれと異なる場合もあるため、民法改正の審議対象となっています。

1 消費貸借  お金の貸し借りは、金銭消費貸借といい消費貸借の一形態であり、消費貸借は民法587条以下に規定されています。  消費貸借は、借主が借りる物と同じものをもって返還することを約束し、借主が貸主より借りる物を「受け取る」ことにより効力が生じます。この「受け取る」というのは、単に借りる物の占有を取得するだけでなく所有権を取得することです。消費貸借は、借りる物を消費(処分)する権利を取得するものだからです。  しかし、実際みなさんが銀行でお金を借りるときは、不動産に抵当権等の担保権を付けることを条件として契約を交わし、その後担保権を付けたことを銀行が確認した後にお金が支払われるといった場合が一般的だと思います。  このような貸付け方が一般的になる背景には、お金を貸す側の実際にお金を貸し付けた後に担保を取ることができなくなるリスクを回避する必要性があるわけですが、そうすると、契約書に署名・押印した段階では契約は成立していないのではないか?抵当権は、担保すべき債権となる消費貸借の契約が成立していないのに登記できるのか?というような疑問が生じてきます。  この点が実態と民法との一貫性がないところなのですが、実際の運用では、後付けでもお金は支払われているのだから契約は成立しているとしたり、そもそも契約はどのように締結しても自由なのであるからお互いの約束があったときに契約の成立を認めるといった取り扱いで対応しています。また、抵当権は、現実にお金を借りていなくても、将来的に発生する債権があれば登記することができます。結局、抵当権の登記によって示される債権の表示と後から借受けた債権との同一性があれば認められる取扱になっています。  お金の貸し借りに民法の消費貸借の規定を厳格にあてはめてしまうと、貸す側のリスクが大きくなり、お金を貸しにくくなってしまうという問題があるため上記のような取り扱いを認めることは致し方ないという気がします。

2 改正の動向  現在、民法の改正のための審議が行われているわけですが、今回テーマにあげた消費貸借では、書面でする場合や電磁的記録(パソコンや携帯端末によるメールの送受信等)でする場合にはお互いの合意があったときに契約が成立するといった提案がなされています。これは、お金の貸し借りの約束に拘束力を認めることが必要である場合が少なくないこと及びこれまでにみたように民法と実態の齟齬をなくすことを踏まえたものであると考えられます。契約の成立により、当事者の契約に対する義務が発生するわけですから、いつの時点で契約が成立するのかという問題は大変重要なことであると思います。今日における消費貸借は、ほぼ金銭消費貸借であるという現状を踏まえ、実態と乖離している現行民法の規定を実態に則したものへ改正する必要性は大きいものだと考えられます。

司法書士法人フジワラ
司法書士 渡辺伸也氏