静岡の企業情報

ビジネス法務

保証契約の制度が変わる?

2014/02/05 [02月05日号掲載]

Pocket

野々垣さん_サイズダウン

 

他人の借金の保証人になった人が、借金をした当事者の借入金の滞納の事実を知らないことにより、保証をしたことを忘れた頃に、保証人の財産では払いきれない保証債務の請求をされ、生活が破綻してしまうことがあると聞きます。このような問題も民法改正の検討対象としているのでしょうか?

 

 

はい、民法改正の検討過程では、経営と無関係の個人が、事業資金の借入に関する保証人となることを無効とする規定を設けるかが検討されています。

 

 

 

1 保証契約とは

 保証には単なる「保証」と「連帯保証」に大きく分けられます。これらの主な相違点は、お金を貸した側(債権者)とお金を借りた側(主たる債務者)、そのお金を借りた側の借金(債務)を保証した人(保証人)がおり、債権者が、保証人に借金の支払いを請求した場合に現れます。

 単なる「保証」であれば、保証人は、債権者に対して、保証人にお金の支払いの催告をする前に、主たる債務者に催告をすることを請求する「催告の抗弁」という権利と、保証人が、主たる債務者にお金を支払う財産があり、かつ、主たる債務者の財産への強制執行を容易にできることを証明したときは、債権者は、保証人の財産より先に、まず、主たる債務者の財産について強制執行しなければならないという「検索の抗弁」という制度があります。

 「連帯保証」契約は、この「催告の抗弁」と「検索の抗弁」という規定がありません。

 他にも「連帯保証」の義務の方がより重くなっている規定がありますが、実際には、金銭の貸し借りに関する契約書等の保証人欄には「連帯保証人」と記載されていることが一般的です。

 また、事業資金の借入を保証する場合においては、商法という法律により基本的には連帯保証の契約になるため、保証債務の内容をしっかりと確認したうえで、保証契約を締結する注意が必要です。

 

2 保証制度の利点と問題点 

 保証契約は、不動産等の高価な担保の対象となる財産を持たない主たる債務者が、事業資金としてお金を借りる際、債権者が、主たる債務者に対するお金を請求する権利(債権)の行使による回収可能性を高める制度として重要な役割を果たし、主たる債務者にとっては、債権者に対するお金を返済する信用力を高められるという利点があります。一方、保証人にとっては、主たる債務者の返済が滞った場合において、お金を返済する義務のリスクを負うことはありますが、それに見合った対価を得ることはなく、実質的に無償で多額の保証債務を負うだけで、保証人となるメリットはほぼないという問題点があります。

 また、第三者が自ら進んで保証人となることは稀で、親族、親友等の主たる債務者との親密な関係にある者が、主たる債務者から「絶対に迷惑をかけないから」と懇願され、あまり保証する内容も理解せず、やむなく保証人となることが大半です。

 保証の内容を明確に理解しているか不明なまま、保証契約が成立すると、実際に主たる債務者が返済を滞ってしまうのは、保証契約成立時から10年以上経過後であることも多く、保証人自身の収入、財産に比べると、到底返済できない保証人が想像もしていなかった金額の請求を債権者から受けてしまうことがあります。

 また、経営者の妻や子供など経営者の収入が主な収入源であるものが保証人となっていた場合には、一旦、主たる債務者の支払いが滞ると、保証債務の支払いをすることは非常に困難となってしまい、連鎖的に保証人の生活が破綻し一家が離散してしまう悲惨なことが起こる危険性があります。

 さらには、主債務者が会社である場合、会社が破産しても、保証人となっている経営者の保証債務は残ってしまうため「私が死ねば保険金で借金が帳消しになり家族の生活は救われる」と思い、経営者が最悪の決断をとってしまうこともあります。

 

3 これからの保証制度に向けて

 これらに対する反省を踏まえ、平成23年7月14日には、金融庁が、金融機関への業務指針として「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督方針」を改正して、原則として経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないこととし、例外的に個人と連帯保証契約をする場合は、金融機関からの要求ではなく、連帯保証人となる契約者本人の自発的な意思に基づく申し出によるものであることを確認すべきという経営者以外の第三者による個人連帯保証等の慣行の見直しを行う旨を発表し、保証人保護を図っています。

 また、民法(債権関係)改正に携わっている法務省の法制審議会民法(債権関係)部会が、平成25年2月26日に決定した民法(債権関係)の改正に関する中間試案では、多くの保証契約の類型のうち「事業者が貸金や手形割引を受けることによって負担する債務(以下、「貸金等債務」といいます)についての根保証契約、保証契約」に限り、保証人が「いわゆる経営者」(以下、単に「経営者」といいます)であるものを除き、経営に無関係な個人の第三者が保証人とすることを無効とする規定を設けるかが検討事項となりました。

 その他にも、主たる債務者の支払いが滞り個人の保証人が債務の支払いを求められた場合、裁判所が、保証人の支払い能力、財産状況を考慮した額まで保証の支払い額を減免する規定創設の検討も議論されています。

 現時点では案の段階であるため、個人保証の契約類型の一部を無効とする法律が創設されるかは未定ですが、仮にこの規定が創設された場合、世界で初めての個人保証を無効とする法律が誕生します。現在、個人保証について世界最先端の議論がこの日本でされており、今後の審議状況が非常に注目されています。

ののがき司法書士事務所

浜松市東区上新屋町231番地の6

司法書士 野々垣守道 氏